日本酒の可能性を、長期熟成という新たな時間軸で切り拓く。
「玉乃光の第2の柱へ。RINGに込めた、時間を価値に変える挑戦」- 代表取締役 羽場洋介 –
玉乃光酒造株式会社 代表取締役
羽場 洋介
公認会計士・飲食業での経験を経て玉乃光酒造へ。 2023年9月に代表取締役社長へ就任し、純米酒の思想を未来へつなぐ第2の柱として熟成酒RINGを推進する。
まず、羽場社長が玉乃光酒造に関わるようになった経緯を教えてください。
20代は会計士として働き、30代は飲食業に関わっていました。
コロナ禍でお酒が売れなくなった時期に、現会長から声をかけてもらったことがきっかけです。
5年ほど前から少しずつ玉乃光に関わるようになり、代表取締役社長として本格的に仕事をするようになってからは、今で3年目になります。
酒造業界での経験は決して長くありませんが、その分、外から見た視点で考えることも多かったと思います。
玉乃光にとって、大きな転機だったと感じることはありますか。
圧倒的にコロナです。お酒そのものが悪いというより、飲み会文化そのものが大きく変わりました。
当時は、いつか元に戻ると思っていました。でも、終わってみると完全には戻らなかった。
夜の飲み会文化が変わり、飲食店の状況も変わりました。日本酒の飲まれ方も、以前とは違うものになったと感じています。
その中で、RINGのような熟成酒プロジェクトが生まれた背景は何だったのでしょうか。
日本酒市場が縮小する中、玉乃光にとって「第2の柱」の構築は長年の課題でした。市場トレンドに合わせた商品開発も行ってきましたが、純米酒の思想と完全に一致するものではありませんでした。
一方で熟成は、技術的な蓄積がありながらも戦略として打ち出されていない領域でした。
しかし、酒質変化を見つめ直す中で、純米酒に含まれる成分が時間とともに反応し、味わいに調和と深みをもたらすことに改めて気づきました。
時間によって酒が自然に整っていくこの在り方は、玉乃光の価値観そのものです。
この気づきから、熟成を純米酒の可能性を最大化する領域と捉え、「定番として育てていく」ことを決断しました。
なぜ「RING」という名前にされたのでしょうか。
玉乃光の「玉」は、円のイメージを持っています。ロゴにもダイヤモンドリングの円が使われていますし、円は玉乃光にとって象徴的な形です。
RINGには、輪、和、つながり、受け継がれていくものという意味があります。
熟成酒は時間を重ねるお酒ですし、人と人の縁や、人生の節目にも重なる。そういう意味で、RINGという名前が合うと思いました。
玉乃光として、変えずに守りたいものは何ですか。
純米です。玉乃光には、純米酒にこだわってきた歴史があります。米をたくさん使い、米の味が出る。食事でいうご飯のように、食卓に自然とある酒を造るという考え方です。
酒が料理を邪魔するのではなく、食事とともにある。そこは、これからも守り続けたいと思っています。
RINGを飲むお客様には、どのようなことを感じてほしいですか。
熟成という言葉をどこまで前に出すべきかは、ずっと考えています。熟成は目的そのものというより、お酒を完成させるためのプロセスの一つです。
時間を経ることで、アルコールの角や若々しいトゲが取れて、味わいが丸くなっていく。色は淡い琥珀色になり、香りは穏やかで、口に含むと複雑な旨味が広がる。そして最後は、甘みの余韻がすっと消えていく。
それは人の生き方にも似ていると思います。良い環境で時間を重ねることで、角が取れ、美しく深まっていく。RINGを通して、時をきれいに経ていくことの良さを感じていただけたら嬉しいです。
最後に、玉乃光をどんな未来につなげていきたいですか。
350年続いてきた蔵を、これからも続けていきたいです。お酒を取り巻く環境は変わっています。量をたくさん飲む時代ではなくなるかもしれません。
でも、お酒は人類の歴史の中でずっと飲まれてきたものです。
人が喜びを感じるものとして、節目に大切に嗜むものとして、これからも残っていくと思います。
玉乃光が100年後にも残っていて、「450年前はね」と語られるような会社でありたい。
信念が酒の中に閉じ込められ、それが受け継がれていく。RINGは、その未来へ向けた挑戦の一つです。